2011年3月15日火曜日

体験談6:手術日の記録

発症年齢40才

2007年

発見
左胸に小さい5ミリくらいのコリッとした砂利のようなしこりに触れ、「えっ」と思って何回も何回も触り直しました。当時、私の左胸には良性のものがポコポコと何個かあって、しこり自体はめずらしくなかったけれど、このしこりの感覚は今までのものとはまったく異質のものでした。

シャワーから出てすぐインターネットで「しこり」について調べると「しこりの8割近くは良性」、そして「コロコロと動くしこりは良性」とも書いてあったので、自分のはどうかなと試してみると、なんとなく動くような動かないような…。「乳がんのしこりは石のように固い」と書いてあるのものもあれば「弾力性のあるもの」と書いてあるのものもあって頭の中は大混乱。生理の前になるとしこりが現れる事もあると、どこかで読んだので、生理が終わったらなくなるかもしれない、まさか私がなるわけがないと勝手に自分を納得させて、すぐにはドクターの予約をとりませんでした。

でもその後、生理が来ても終わっても、立って調べても寝ながら調べても、やはり同じところにしこりがあって、さすがの私も、あ、これはやばいかも…と感じてドクターに会いに行きました。

結果的にステージ1の浸潤癌だったのですが、5ミリほどと感じていたしこりは、実際には1センチほどでした。


手術日の記録
手術日は朝6時30分に一人で家を出ました。日帰り手術の予定なので小さなポーチに帰りのタクシー用の現金とケアカードだけを入れて持って出ました。

術前検査(心電図、血液検査、胸部レントゲン)は事前にすませてあったので、私の最初の予約は朝7時にジェネラルホスピタルでのセンネル生検でした。青いホスピタルガウンに着替えて先生の到着を待ちました。私を部屋に通してくれたナースがあちこち歩き回って「**先生まだ来てないの?」ってみんなに聞き回っていました。あせっている様子もなくあいかわらずのんびりしてる。30分くらいしてやっと先生登場。こちらのドクターはたいがい皆「ハーイ、私はドクター**です。ハウアーユー?」とにこやかに自己紹介をして、これからやる事を丁寧に説明してくれます。この先生も例外ではなく、自己紹介とセンチネル生検の説明をした後、早速しこりに注射を開始しました。「ちょっと圧迫感かんじますよー」…って圧迫感でなくてグイグイ注射器を押してる感じで痛いんですけどぉー。「ごめんねーもう少しで終わるからねー」っとやさしく言ってくれるのですが痛いのは痛い。涙がちょちょぎれてる私に、先生は「はい、終わったよ。じゃ、アイソトープがまわりによく行き届くようにガーゼの上から やさしくマッサージをしておいてえね」って去って行きました。

その後40分くらいベッドで雑誌を読みながら待った後、次はアイソトープがどの辺に行き渡っているかをみるスキャンでした。別室でガンマカメラを使って撮影。CTスキャンのような機械に患部側の腕をあげたまま寝転んで1回7分で2回撮影しました。撮影中は動かないようにと指示されました。

その後、写真(といっても人のからだの図とアイソトープがたどり着いたところに印がついた白黒のコピー)をもらい、次の予定地、BC Cancer Agency (がんセンター) に一人でテクテクと歩いて移動しました。外は抜けるような青い秋空が広がる良いお天気で、こうして歩いていても、まわりの人は私がこれから乳がんの手術をしに行くなんて想像もつかないだろうなって思ったら、自分がなんだか世間から取り越されたような感じがしてちょっと悲しかったです。

BCがんセンターでは、まずはデイサージャリー(日帰り手術科)にチェックインしました。看護士さんに家族の連絡先と迎えにきてくれる友達の連絡先を聞かれ、名前の書いたホスピタルバンドをつけられました。ここでも自己紹介。「ハーイ、私の名前は***よ。よろしくね。あなたは日本人?わたしは日本に行った事あるの。温泉の近くで野生の猿を見たのよ~。」なんて緊張している私をほぐしてくれようとしてくれました。ホスピタルガウンに着替え、分厚い緑の膝上までくるストッキングを履き、持っていたかばんと服をロッカーにいれました。そして、次の超音波下ワイヤー挿入に行くための迎えを待ちました。

車いすに乗せられて一つ上の階のエコー室に入りました。しこり位置をチェックするためのエコー。暗いエコー室の中で私も画像を見守りました。するとエコー技師が問題のしこりのすぐ横の影を入念に調べ始めました。「うーん、僕はくれも怪しいと思うんだけどなぁ」。エーッッ!!!一つだと思っていたしこりがふたつなの?今まで2回もエコーで調べてもらって誰も見つけられなかったって事?やっぱり私のがんは広がってるの?といろいろな事が頭をめぐり私はもうパニック状態。しばらくするとワイヤーを挿入するドクターが来て麻酔をしてワイヤー挿入。これがまたまた痛い!どうやらしこりのある周辺にちょうど筋肉があったらしいんです。センチネルの先生と同じく「ごめんねー。がまんしてねー」とは言ってくれるけどやっぱり涙。このワイヤーはしこりに目印をつけるためなので2本入れられました。

ちょちょぎれた涙を拭き拭き2階のデイサージャリーにもどり、あとは手術を待つのみになりました。トイレをすませストレッチャーに乗り、ナースが来て点滴の針を刺すために右腕の血管を探したけどなかなか浮いてきませんでした。暖かいタオルをまいて浮かせてようやく確保できました。


その後麻酔科の眼鏡の鼻筋のすっと通った先生が来て問診と説明をはじめました。そして「最近の麻酔は術後すぐ目覚めるし吐き気もないよ。信じないかもしれないけど麻酔の間みんないい夢を見るって言ってるんだよ。」と言い、さわやかなスマイルを残して去って行きました。

12時少し前執刀医 Dr.M登場。もの静かなおじさんていう感じの先生で「気分はどう?」って入ってきました。私のチャートを見て「朝からいっぱい突っつかれて(針やワイヤーで)大変だったね。もう少しだからね」って声をかけてくれました。エコーで影がもう一つ見つかったのでもしかしたら全摘になるかもと心配していたけど、Dr.Mはいっしょのエリアだし5ミリと小さいから予定通り温存で大丈夫といってくれて安心しました。

手術を経験した友達からは「手術は痛くもかゆくもない四次元の世界で行われるから心配ないよと」言われてましたが心のなかでは半信半疑でした。ストレッチャーで手術室に入り、ひんやりした手術台にズリズリと自分で移ったあと、いろんなものを貼られてあれよあれよと思っている間に麻酔科の先生が頭の上で「じゃ、今から薬いれますよー」って言ったのを聞いたのが最後、部屋がくるくるまわって気づいたときにはリカバリールームに帰っていました。

麻酔科の先生がおっしゃったように夢をみていました。どんな夢だったか覚えてませんが、「あー、なんかまわりで声が聞こえる」ってぼーっと目覚めてきました。しばらくして本当に目が覚めてくると、寒くもないのになぜだか震えがとまらず「震えがとまらない」とナースに訴えたら暖めた毛布を頭からかぶせてくれてやっと止まりました。患部に痛みがあったので痛み止めをもらって、しばらくはぼーっとしてましたが、1時間くらで痛みは治まってきたので自分で服を着てベットからおり、椅子に座ってナースと談笑しながら迎えを待ちました。

いろいろな準備にまわされて、いろんな先生が入れ替わり立ち替わりやってきて、つっつかれたり切られたり…と、まるでベルトコンベヤーに乗せられた「肉の塊」になった気分でしたが、大きな問題もなく手術は終了し、私の乳がん闘病の最初の長い一日が終わりました。